3 危険か冒険か【Risk】伊達×真田
「政宗様!!どちらへ行かれるのです!!」

後ろから小十郎の声がしたが、政宗はそれを振り切って、馬を全速力で走らせる。
ここでつかまってしまっては、なんにもならない。
「すーぐ戻ってくるからよ!!」
政宗は背中で怒鳴っている小十郎に片手を挙げて、笑った。



政宗の装束は、戦いのそれではない。黒い一重の着流しに裾に銀が散った、実にシンプルなものだった。刀は、いつもの6本ではなく、1本だけ隠すように馬の腹にくくりつけてある。
派手好みとは言え、今日のこの日にはさすがに派手なものは身につけることは憚られた。が、独眼竜といわれるゆえんの眼帯が、彼の人を政宗以外のものではないとたらしめている以上、派手だろうが地味だろうがそんなに意味はなかった。せいぜい遠目に見て、だれだかわからなくなる、程度だろう。

「さあて、いくかー!」

地味にした意味もなく、敵も来るなら来いといわんばかりに馬を走らせる。だが、その暴走には誰かが見つけても、とても追いつけるものではあるまい。奥州の馬は武田騎馬軍団にも引けをとらないと言われているのもうなずける走りっぷりであった。




政宗は、一日馬を走らせ続けた。
そろそろ馬の疲れもピークに達しようかというときに、やっと目的地へたどりついた。政宗は、馬を下りて、手綱を引く。水を飲ませてやらねばなるまい、と一歩踏み出したところに、すぐ横の茂みがガサッと音を立てた。

「誰だ」

政宗はとっさに刀の柄に手をやって誰何の声を投げる。

「誰だじゃないっしょ。なんでアンタがこんなとこにいるんだよ」

ストッと音も立てずに政宗の前に降り立ったのは、真田幸村直属の忍頭、猿飛佐助だった。投げるかどうか迷ったのか、クナイを手持ち無沙汰にくるくると回している。

「ちょっと遊びにな」

伊達は、悪びれもせずに佐助に向き合った。佐助は額を押さえて天を仰ぐ。

「奥州からここまで遊びにって距離じゃないでしょ。アンタんとこの側近はなにしてんだか」

ため息と共に吐き出される言葉に、政宗はにやりと笑った。

「呼び止める間もあればこそ、だな」
「…家出かよ」

奥州の筆頭にこうも気安く声を掛けられるのは、幸村と共に何度も顔をあわせているからで。それはすなわち闘いにはいつも巻き込まれているという意味で。佐助は、ちょっと頭痛がするかのようにこめかみを指で揉み解すしぐさをした。

「で、ほんとは何しにきたのよ。別に攻めに来たわけでもないんでしょ」
「わかってるだろ。幸村はどこだ」
「うちの旦那なら、屋敷で団子でも食ってんじゃないの〜」

気の抜け切った様子で木にもたれかかった佐助は、ひらひらと手のひらを振って見せる。

「へぇ。じゃ、そっち行ってみるかな」
「あのさ、逢いに来るのはいいけど、屋敷壊さないようにしてね」

幸村と政宗が出遭って、闘いにならなかったことがないのを目の当たりにしている佐助は、ちらりと視線をよこして釘をさす。
政宗は、どこ吹く風というように視線を受け流して、馬の首をめぐらせた。

「アンタんとこの旦那がおとなしくしてくれりゃあな」
「…なにする気だ」
「さあてね。命のやり取りにはならないと思うぜ。たぶんな」

佐助は何か嫌な予感を感じて表情を引き締める。

「旦那になにかありそうなら、俺も黙っちゃいないからね」

クナイを指先でもてあそびながら、不敵に笑う。政宗はこちらも口元だけで笑ってみせた。


幼いころから欲しい愛情は手に入らなかった。
だから、最近では本気で欲しいと思ったこともあまりなくなっていた。
あの炎は、手に入るだろうか。
自分を燃やし尽くして、跡形もなく葬りさるか、それとも…。
「When there is not a risk,I am not interesting」
危険がなきゃおもしろくもなんともない。
政宗は、いかにも楽しげに笑みを浮かべて、幸村の待つ屋敷へと向かった。


幸村が出てきてませんね。佐助と殿のやりとりが書きたかったのかな。
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