4 優しさか弱さか【Tender】エド×ロイ
あいつは、いつでもオレに黙って危険なことを終わらせてしまう。
あの時もあの時もあの時も!!
誰もそんなことは望んでいないってーのに。あーむかつく。
司令部に寄るとたいていのんびりと書類整理をしていたりするはずの面々が揃って席をはずしていた。
「なにかあったのかな?」
オレの隣でアルがちょっと心配そうな声を出した。
オレはさあな、と言いながら近くに居た軍服を捕まえようと足を踏み出した。
「なんかあったんすかぁ?」
声をかけると、軍服はオレをみて少しだけ訝しそうな顔をして、それでもすぐにオレが誰だかを思い出したのかいきなり姿勢を正して左手を額につけた。
いや、そんなにかしこまられるような立場じゃねえし、と言おうとしたが、軍服はそれよりも前に気が急いたように口をひらいた。
「鋼の錬金術師殿にご報告します。今朝未明テロの予告と強盗予告状が同時に届きまして…」
軍服の言葉に、オレはスッと背筋が凍ったような感じを覚えた。
闘いの前に奥底から溢れる心地よい緊張感。それと似た感覚がオレの頭を冷やす。
「兄さん」
「ああ」
弟の言葉は一種の確認だ。手伝いに行くのか、それともここで待つか。
待つのは性に合わないことは自他共に認めるところだ。
しかし、それよりもオレが東部にいることを知っていたのに予告状が届いた時点で連絡がなかったのが許せねえ。
どうせ大佐が知らせるなとでも伝令を出していたのだろう。
が、司令部に来てこんなにもあっさりと軍服がしゃべったところを見ると、知られてもかまわないと思っていたのだろう。
そして、オレがそれを聞いて黙って待っていることはありえないだろうことも大佐にはお見通しに違いない。
其処まで見抜けてしまって、なんだか手のひらで踊らされている上に試されているような気もするが、それはそれで面白い。
「乗ったろうじゃねえか」
そうと決まれば行動あるのみ。
「兄さん、どっちに手伝いにいくの?」
逸る気持ちを引き止めた言葉にオレは、あ、と口を開いた。
「そうか。2件あるんだっけ」
「すみません、その予告の場所を教えてもらえますか?」
アルはオレのつぶやきは無視して、軍服に尋ねる。軍服は手にしていた書類を捲る。が、アルは一般人だ。それに伝えてもよいものかオレに目をくれた。
「オレたち2人で手伝いに行くんだ。教えてくれ」
「了解しました」
軍服はいささかほっとしたような表情を浮かべて2件の場所を教えてくれた。
「テロの方がたぶん戦力が必要になるだろうな」
「そうだね。そっちの方が兄さん向きかな」
「…人を戦闘マニアみてえに言うな」
「適材適所って言うんだよ」
結局アルとオレは別れてどちらにも加勢しに行くことにした。話を聞いた限りでは、どちらもそんなに深刻な問題でもなさそうだったし、東方司令部の精鋭(と呼んでいいのかわからんが)が出払っていることを考えても2人同時にいることもないと踏んだからだ。
「それに、テロの方に大佐はいると思うな」
「…なっ、ソレこそ関係ねーだろ!!」
「じゃ、兄さん。終わったら司令部に連絡入れてそのまま宿に行ってるからね。それと、大佐がなにも教えてくれなかったからって、あんまり怒っちゃだめだよ」
アルは人をほんとになんだと思っているのだろうか。
兄としての威厳だとかいう前に人間として、最低レベルで見られてるような気もしなくも無い。
「わあかってるって。でもちょっとむかついてるから噛み付くくらいはするかもな」
「黙ってたのは大佐の優しさなんじゃないかなあ。兄さんが旅で疲れてるだろうしって」「…んなこたぁわかってる」
「分かってるならいいんだけど。じゃボク行くね。大佐にもよろしく」
「ソッチにいたらオレからだって一発殴ってやれ!!」
オレの言葉にため息をこれ見よがしにつきながら、アルは強盗予告の現場へと走っていった。
いやいや待て待て。アルフォンス。兄ちゃんはもっとオレにも味方して欲しいぞ。
といじけてみてもしょうがないので、オレもため息をついてテロ予告現場へと足を向けた。
「あら、エドワードくん」
テロ現場の一歩前で車の陰から出てきたのは、鷹の目ことホークアイ中尉だった。
オレは片手を上げて中尉の隣まで駆け寄る。
中尉がここにいるってことは、大佐もここにいるってことだろう。
オレはアルの言葉どおりになったことに少し悔しい思いを噛み締めながら、ライフルの準備をしている中尉に尋ねた。
「手伝いに来た、んだけどなんかやることある?」
「誰から聞いてきたのかしら? 皆には口止めしてきたはずだけど」
連絡が行き届く前に貴方たちが来てしまったのかしらね。 そんな呟きに、オレは司令部で考えていたことが外れていたことを知る。
あのクソ大佐は最後までオレたちには何も知らせる気がなかった、ということか。
オレの大して強くも無い堪忍袋の緒がぴりぴりと音を立てて少しずつ切れていくイメージが頭に浮かぶ。アルに散々怒るなと言われていたことだったが、溢れてくる感情はどうしようもない。自分でもこめかみがひく付いてるのを感じながら噛み締めるように中尉に尋ねる。
「で、その口止めを命令したおエライ大佐殿はどちらに?」
「貴方たちを思ってのことよ。甘いとは自分でも言ってらしたから少しは悪いと思っているとは思うけど」
中尉は苦笑しながら、今はまだ静かなテロ現場を見やる。
「その甘さが命取りにならなきゃいいけどな。使えるものはなんでも使うって普段豪語してる男のやり方とは思えねえ。そんな優しさなんか軍にはいらねえだろ」
「そうね。貴方たちのことに関しては、優しさと言うよりも甘いと思うわ。でも、それが弱さにならなければ私には何も言うことはないわね」
淡々とした中尉の言葉に、オレは何の衒いもなく思ったことを口に乗せた。
「弱さ、もしくは弱みになるくらいなら、オレたちは迷わずに消えるよ」
オレは前を向いたまま中尉に宣言する。中尉は驚いたようにオレを見たようだけど、オレは決心の固さをあらわすように前を向き続けた。
中尉もオレたちを心配してくれる人のうちの1人だ。だけどそれは押し付けがましいものではなく、さりげないものだったからオレは中尉にだけは本音がするりと口をつく。
いつも心の中ではしまった、と思うことも少なくはない。
あからさまな心配と愛情を見せる他の野郎たちには、持ち前の天邪鬼が反発心を生んでしまうのに。
オレがそんなことを考えている間にも中尉はライフルに弾を込めていく。
「安心して貴方にあの人を任せられる言葉ね」
思わず中尉を振り返る。目を合わせれば、中尉の目が優しく微笑んでいた。
その目が少しだけ母さんに似ていた気がした。
が、すぐにその微笑は軍人としての厳しいそれに変わった。
「さ、大佐はあちらにいるわ。甘やかしてもらうほど子供じゃないって怒鳴りつけてあげて」
「了解!」
オレは中尉に背中を押されて走りだした。
顔を見たら、最初に何て言ってやろう。
「馬鹿にすんな」?
「オレをもっと利用しろ」?
いや、とりあえず一発殴って、それからさっさとテロを捕まえて、子供でも役に立つってことを見せ付けてやろう。
「でもって、最後は…」
錬金術でもなんでもかまわないから拘束して一発ヤってやる。
もう子供なんて言わせてやらねえから覚悟しろ!!
オレは自分の考えに満足して、にやりと笑った。
言い訳
受けの出てこない攻めの話。
エドがヤる覚悟を決めた話(どんなや)
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