日輪は、いつも天上にいる。

元就は、良く晴れた青空を照らす太陽を見上げた。
戦では部下を手ごまにして冷酷と評される采配を奮う元就も、戦を離れれば穏やかに過ごす時間の方が多い。
だが、どんなに穏やかに過ごそうともその目に宿る冷たい光は緩まることがない。
政務に追われる時間をやり過ごし、午後の暖かい日差しを浴びながら海に足を運ぶ。
風は海から磯の香りを運んでくる。
気持ちがいい。
風に思うまま髪を弄らせながら、元就は大きく息を吸い込んだ。
湿った風と磯の香りに落ち着く心を感じる。天上からの太陽の光は元就の活力の元ともなるものだ。その光と風を体全体で感じていると、鋭気が漲ってくる気持ちがする。
ふと、その風に嗅ぎなれた香りが入り交じって来た。
「…船がくる」
ポツリと呟きを落として、元就が目を眇める。
じっとその場で風を読む。急に風向きが変わった。波が大きくうねる。
入り江の向こうから大きな帆船が姿を現した時、元就の切れ長の目が一瞬だけ瞠られる。
ただの漁船かなにかかと考えていた。
だから、まさかそんな大きな帆船が現れるなどとは考えてはいなかった。想定外のことが起こり、心にさざなみが生まれる。
しかもその帆に描かれた馬鹿みたいに大きな紋章に、元就の目が険悪な色を帯びた。
「長曾我部…元親」
あの派手な船に元就は、嫌悪感を隠しきれない。
しかめ面が張り付いたまま、その船の行方を伺っていると、案の定元就のすぐ側で船を止めた。
思わず踵を返しかけた時、船の上から阿呆のようにあっけらかんとした声が元就の足を止めたさせた。
「うおーい! 元就ぃ!」
肩ごしに振り返ると、船の上からこれまた声に劣らず阿呆な笑顔で手を大きくふる頭領の姿が見えた。思わずため息をついて今度こそ踵を返した。戦をやりに来たわけではないことはその表情を見ればわかる。それが作戦かなどと気を張っていると馬鹿を見るのはこちらだということも嫌というほど知っている。だから、背を見せることになんのためらいもない。
だがその元就の後ろからヒュンヒュンという音と、鎖のこすれる音がして目の前に、大きな音をたてて、なにかが落ちた。いや、正確に表せば大きな錨型の武器が突き刺さった。どすんと重い音が元就の足を止める。驚きすぎて声も出ない。あの阿呆の武器だと思った瞬間、元就は勢い良く振り返った。
「貴様! 背後からとは卑怯であるぞ!」
「あ〜? べつに殺す気も害する気もなかったんだからいいじゃねぇか」
細かいことは気にするな! と叫んで、部下が出した小船に飛び乗った。
その様子をあっけに取られて見ていた元就だったが、徐々に小船が近づくにつれて眉間に皺が寄っていく。
「よお、久しいな」
睨みつけるように見上げた先に、浅黒く日に焼けた顔がにへらと笑った。
こいつは頭領だという自覚があるのだろうか。
曲がりなりにも敵陣に乗り込んでこの行動は本気で馬鹿なのではないかという疑問が浮かぶ。その表情をどう読み取ったか、元親は元就の後ろに突き刺さったままの得物を手にして引き抜く。
その見るからに重そうな得物をひょいと肩に担いで見せた腕を見るともなしに目で追って、元就は奥歯を噛み締めた。
「近く通ったからよ。こっち回ってみたらあんたが見えたからちょいと寄り道しちまった」
はっはっは、と豪快に笑って見せる笑顔の向こうからまぶしい太陽の光が射抜く。元就は目を眇めてその笑顔を見上げた。
まぶしい。
日輪に愛されたもの、というのはこういう者のことを言うのではないかと錯覚さえ起こしそうになる程に。
日の光と潮風を浴びてたくましく日焼けした肌に引き寄せられて、元就は太陽に抱かれているような気になる。抵抗する瞬間を逃してしまえば、そのまま厚い胸板に頬をつけるしかなくて。元就はどうにもこうにも自分の心が解せないまま体重を預ける。
「…のんきな男だ」
「風が向くまま気の向くまま。お宝の匂いのするところにゃ何処へでも行ってやるぜ」
元就の呟きに、元親が力強く応える。
「宝、か。だが、ここにはなにもないぞ」
あるとすれば、天上の日輪か。そう応えれば、元親が笑った気配が胸から伝わる。
「あるじゃねえか。本当なら今すぐココから持って帰りたいくらいな極上な宝が」
くっくっく、と笑うたびに胸が上下して元就の髪を揺らした。
そして肩を掴んで軽く引きはなすと、少しだけ身をかがめて元就の目を覗き込んだ。
「此処に、な」
「っ…」
口元の笑みに反して目が真剣で、元就は目を瞠る。
「本当に、持って帰りてえな」
「な、なにを馬鹿なことを」
元親の目が細められて、元就は思わず目をそむけた。
「ああ、馬鹿なことだ。だから、見に来てんだ。見るだけならかまわねえ、だろ?」
掴まれた肩に力が篭った。元就はちらりと元親をにらみつけるように見た。
「見るだけとはよく言ったものだな」
「いい宝は触りたくなるんだ」
元就の言葉に笑って、元親は右手を手を伸ばす。
そのまま接吻けた。
ふと掠めた潮風の香りと太陽の香り。
元就は離れたぬくもりに、口元だけに笑みを浮かべる。

日輪は、ここにも在った。

end






軽い気持ちで読んでください。
ありがちなネタで申し訳なし。
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