webclap:風邪 エドロイver.
風邪、というものはとても身近な病気だ。
体の抵抗力が落ちるととたんに食いついてくる、やっかいなウィルス。
軍人として鍛えているお陰か、私は風邪にかかることはめったになかった。
幼いころにはよく風邪のウィルスに悩まされていたものだが、大人に
なった今、その存在さえ忘れそうになるほど、私には関わりのないものだった…はず。
「ほら、薬」
水とともに手渡された小さな粉薬に、反射的に顔がこわばる。
「大佐が風邪ひくとはなー。明日は雪かもな」
失礼なことをほざいて、窓の外を見やった少年は私の方を振り返って
にかっと笑った。
「君に移されたんだ、しっかり看病してくれたまえよ」
上半身を起こしたとたん、気管の奥から咳が押し出された。
「だからー、悪かったつってんじゃん」
じとりと睨むと、鋼のはちっともそう思っていないような顔で笑う。
なにがそんなに楽しいのかはわからないが、私の世話をしている鋼のは
非常に良く笑顔を見せていた。
「まさか、ほんとは移るとは思わなかったんだよなー」
…しかたないだろう。
ここ最近はいきなり外気の気温が10度以上も下がり、軍部でも風邪を引
いたり、体調を崩しているものが多くなったのだ。そのお陰で寝る暇も
ないくらい忙しくて、一週間で細切れに15時間程度しか睡眠時間が取れ
ていなかった。
そして、鋼のの来訪。
子供は風の子というが、風邪の子、という言葉を当てはめてもいいいの
ではないかと思う。表面には現れていなくても、ウィルスを保持してい
るのが子供だ。
よく咳払いをしていた子供の様子を侮っていたのは確かに私の落ち度だった。
風邪になぞやられるわけもない、と高をくくっていた。
だから、子供がキスを強請ったときも、なにも考えずに応じてやった。
その先も。
その結果が、これ。
私はベッドに縛り付けられ、嬉々とした鋼のが甲斐甲斐しく動いている。
「さっき司令部に電話したら、完治するまで出てくるなだって」
「…それはありがたいお言葉だ」
「今は落ち着いてるらしいぞ」
不幸中の幸いは、先に倒れた人間が治って復帰してくれていることだ。
一番忙しい時に私が倒れていたら、きっと司令部の奴らは引きずって
行ってでも司令部に縛り付けていたことだろう。
上半身を起こして、鋼のの作ったスープを片手にため息をつく。
「それ食ったらちゃんと薬飲めよ」
「ああ、了解した」
洗濯してくる、と部屋を出て行く際に見せた笑顔がとても印象的だった。
きっと、あの子達の母親が見せていたのだろう笑顔はきっとこんな感じ
ではないだろうか。そんな慈愛に満ちた笑顔。
そんな表情を見れるとは思わなかった。
思わずぼけっと見送ってしまった。スープを傍らのテーブルにおいて、
薬を飲んだ。
自分が小さな子供に戻ってしまったような感覚を覚えて、再びベッドの
中にもぐりこんで笑った。
いつも、鋼のには驚かされる。
めったに近くにはいないくせに、近くに居れば違う一面を見せられて
いつも違う印象を植え付けていく。
だから…手放せない。
どう変わって楽しませてくれる?
熱に浮かされた頭で考える未来は、とても楽しい物だったので、久々に
幸せな気持ちで眠りに落ちた。

end


風邪、エドロイバージョン。
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