webclap:ハロウィン エドロイver.
とりっく おあ とりーと!!
子供が魔を退けるために、仮装をして街を練り歩く。
久々に降り立ったここでも、そこかしこで子供の声が響いていた。
街を見回せば、オレンジ色のかぼちゃがまぬけな面をさらしているのが目に入る。
「ハロウィン、ねえ」
まずいとこに来ちゃったな、と呟いているのは本音か建前か。
「兄さん、今ならボクも仮装で通るかな?」
エドの隣で鎧姿のアルがうきうきとした声を上げた。エドは、ぱちくりと目を見開いた。
「ああ、いけるかもな」
「じゃあさ、ボクも混ざってきていい? お菓子はあとで兄さんにあげるからさ」
アルは今にも走り出しそうな勢いだ。エドは久々に聞く楽しそうな声に、苦笑を浮かべながらも頷いてみせた。
「俺、司令部にいるからさ」
「うん、わかってるよ。終わったらいつもの宿で待ってるね」
アルは手を振って、子供の声がする方へ走り出していった。
「やれやれ」
エドはアルのはずむ後姿を見送って、手にしたトランクを肩にかついだ。
「さーて、じゃあ、オレも行くかな」
心持はずんだような歩き方で、エドも司令部に向かって行った。
まだ日も高い司令部は、いつものように喧騒に満ちていた。
ざわざわと人の声が押し寄せる。街の喧騒とは違い、どこかしら規律に縛られたような固いざわめき。
エドはこの喧騒が嫌いじゃなかった。どことなく背筋が伸びる気がする。決して身長が伸びるわけでもないのが悔しいところだが。
「ちわーっす」
通いなれた司令部の一室に顔を出すと、中では比較的のんびりしたムードが漂っていて、見知った顔がこちらを見た。
「おー、久しぶりじゃん」
手を上げてハボックが声をかけてくる。それに片手を上げて返す。
いつでもこうやって明るく出迎えてくれる人たちがいることに、いつも気恥ずかしさを覚える。
「アルフォンスくんは?」
「あいつなら、子供に混じって菓子もらってくるってはりきって行っちまったよ」
ホークアイに返した言葉に、他の面子から納得の声があがる。
「あーいうの好きそうだもんな。で、エドは行かなかったのか?」
ブレダがにやりと笑う。
「オレはそんなことで喜ぶほど子供じゃねえんで」
トランクを降ろして、エドもにやりと返す。と、そのとき、頭の上からばらばらと何かが落ちてきて、エドが混乱したように頭をあげた。
「お菓子をやるから、さっさと報告書を出せ」
「〜〜〜〜〜っ!」
目の前に涼しげな顔をして手をエドの頭上に上げていた男は、そのままエドの頭をがしっと掴んだ。
「いてぇだろうが!」
「いいから来い」
人攫い〜〜!! と叫びながら連れ去られるエドを呆然とみやっていた面々は、ため息をついて、散らばった色とりどりのお菓子をエドのために集めてやった。
「さて、司令部に来たら一番に私のところに来いと言っておいたのにもう忘れたのかね」
「あーあー、すみませんねえ。こちとら覚えることが山盛りで、そんな些細なことは聞いた事さえ忘れちまいましたよ」
ソファに行儀悪くだらりと座ったエドが鋭い男の視線を避けるように、背もたれにもたれかかって答えた。
「まあ、君にそんな殊勝なことは期待していないがね。それにしても、こんな時期に君が来るとは思って無かったよ」
男は立ったままエドを見下ろして、腕を組む。
「あー、忘れてたんだよ、ハロウィンだなんて」
「いや、買っておいたお菓子が無駄にならずにすむよ」
しれっと言う男の言葉に、エドが振り仰ぐように顔をあげた。
「あん? オレのために買っといたのか、あのお菓子」
エドは目の前に降り注いだ色とりどりに包まれたかわいらしいお菓子を思い出す。
「つーか、自分で?」
「ああ、そうだが。ここにくる子供は他にはいないしな」
この、ちょっと街で女の人に頼めば喜んで買いに行ってくれるような人はいくらでもいる男が? 自分で? あのかわいらしい菓子を?
「うっわ、ありえねえ〜」
エドは買いに行っている姿を想像して思わず爆笑した。
「笑うな、ばか者」
「いや、大佐。笑うなって無理だから、それ」
エドは笑いを収められず、とうとうソファに腹を抱えて横になってしまった。
ロイは憮然としたような顔を崩さずに、自分の机の上においてあったものを取ってその中身をソファの上で転げまわるエドの上に降らせた。
「って! だから、いてえって!」
ばらばらと降り注ぐそれは、かわいらしいが、硬いもので。当たればそれなりに痛い。
顔をかばうように手で防御したエドは、お菓子とともに降りてくるロイの目を見た。
「ハッピーハロウィン」
ロイの唇が己のそれに重なる前に、エドが囁く。
エドの手に落ちたチョコが、重なったロイの手との間で溶けて行った。
end