webclap:風邪 ダテサナver.
筆頭がお風邪を召した。
伊達家筆頭のお守役、片倉小十郎が重々しく朝議の際に発した言葉は、
瞬く間に奥州近辺の城主に広がった。
「おいおい、小十郎。なんだこの大騒ぎは」
「こう言って周りを固めなければすぐに逃げ出そうとする人がおいで
ですからね」
背後に各城主からの見舞いの品の山を背負ってにやりと笑う小十郎に、
伊達家筆頭政宗は、ため息をついた。
「まあ、いい機会でしょう。暫し骨休めをしなされ」
小十郎はそういい置いて、立ち上がった。
「おや、また見舞いが届いたようですな」
すたすたと濡れ縁のきしみも最小限に近づいてくる足音に、小十郎は
居住まいを正して、障子を開けた。
「見舞い…? もう十分…」
政宗がしかめ面をして障子の方を見やって、言葉を止めた。そこに見
えた赤い姿に、息を呑む。
「幸村…?」
「信州の方にまで拡がっているとはこの小十郎にも予測つきませんなんだ」
小十郎の言葉は苦笑を含んでいて、それが真実だと知れる。
「それでは、私はこれにて失礼」
うろたえた風の政宗を置いて、幸村と入れ違いに小十郎が出て行く。
障子はぴたりと閉められて、部屋の中が少しだけ翳った。
「政宗殿、風邪を召したと聞きまして。お舘様より見舞いの品をお運び
申し上げました」
「あ、ああ。それは悪いことをしたな。別に寝込むほど悪いわけじゃね
えんだが」
幸村が部屋に入って居住まいを正すと、政宗が決まり悪そうに頭をかいた。
「そのようでござるな。少し、ほっとしもうした」
「遠路はるばる来たってのに、こんなんでがっかりしなかったか?」
「いや、そんなことはござらん。むしろ寝込まれていたら心配で帰るこ
ともできなく…っ」
幸村は自分で言った言葉にハッと口をつぐんだ。
「へえ? それは残念。もちっと我慢して寝込んどくんだったな」
にやりと笑う政宗に、幸村の顔が赤くなった。
「まあ、まだ本調子じゃねえから、なんもさせてもらえねえけどな」
うちの奴らは過保護でな。
政宗はそう笑って、幸村に手を伸ばした。
その手を掴んで、幸村は淡い笑みを見せる。
「いつもよりまだ熱いでござるな。安静にしていなければなりませぬぞ」
熱の出ている政宗よりまだ熱い手のひらに、政宗は笑みを見せる。
「お前の手のが熱いじゃねえか」
「某は、通常の体温が高いのでござる。佐助にはまだまだ子供だといつ
も笑われておりまするが」
少しだけむっとしたように、幸村が手に力を込めた。
「それでよく俺の体温がわかったもんだ」
「…それは」
政宗の言葉に、幸村が詰まったように言葉を呑む。
「それは?」
口元に笑みを浮かべたまま促す政宗を軽く睨んで、幸村は顔を赤くした。
「いつも触れている体温と違うから分かったでござるよ」
早口に言う幸村に政宗は握った手を引き寄せた。
「俺の熱が平熱に戻るまで、お前は俺専用の熱はかりになりな」
「な、某、そんなことをしに来たわけでは…っ」
引き寄せた手に接吻けて上目遣いにみやれば、幸村は息を呑んで詰まった。
「もう決めた。見舞いの品の礼状にそう書いといてやるから、しばらく
ゆっくりしていきな」
引き寄せられるまま政宗の胸の中に閉じ込められた幸村は、諦めたような
ため息を吐いて、それでも頷いた。
退屈だっただけの療養が、これで色が添えられた。
政宗はこれからの数日間をどう過ごそうか、それを考えて腕の中の幸村の
額に接吻けた。
end
寒い季節なので、風邪で(笑)今回は伊達さん風邪バージョン。