04: ひみつの木陰
「…なにしてんの?」
オレがいつものように書庫の鍵を借りに東方司令部を訪れると、中尉と少尉たちがなにかを囲い込むようにしゃがみこんでいた。
「いらっしゃい」
「おっす」
中尉と少尉が揃ってこちらを見上げてくる。オレは片手を上げて挨拶を返すと、みんなが囲んでいるものを覗き込んだ。
それは、フュリー曹長が持った布に噛み付いていたかと思うと、オレを見上げて「くぅ」と鳴いた。
「ブラハじゃん。なにしてんの? 探し物でもさせんの?」
オレは見上げてくるブラハの頭を撫でた。フュリー曹長は真剣な顔で布を握り締めていた。
「探し人ですよ」
真剣な顔でブラハを見つめるフュリー曹長のメガネが光を反射した。表情が隠れて、ちょっと怖い。オレは呆れたように、ちょっとだけため息をついた。
「なに、またいなくなったのか?」
「そうなのよ。みんなで探したんだけど、見つからなくってね。で、せっかくだからブラックハヤテ号の能力検査も兼ねて、探させてみようかと思って」
なるほど。フュリー曹長が握り締めているのは大佐のハンカチかなんかだろう。
って、ここに来てから大佐の名前を聞かずとも「探し人」イコール「大佐」ってことで通じてしまう辺り、もう駄目な気がする。
マジで、連日サボってるってのも問題ありだな。
「じゃあ、オレもブラハと一緒に探してきてやるよ」
どうせ、資料を読み漁りに来てるだけだし、なんか働かないと悪い気もする。
これが大佐の探し物とかだったら、大佐には迷惑かけられてるし、面倒な仕事は押し付けられてるし、ぜんぜんほっとけるんだけど。
「お、それは助かるな」
少尉が(この場合は、ブレダ少尉は犬嫌いで部屋からも逃げてるからハボック少尉な)にかっと笑って、立ち上がった。
「そうね。私たちはまだ仕事が残っているし…」
ホークアイ中尉も立ち上がって、自分の席を見つめる。そこには大佐の席ほどじゃないが、書類が山積みだった。
「うん。中尉たちはしっかり仕事して、大佐の仕事増やしておいてよ」
オレはにこっと笑うと、フュリー曹長からブラハを借り受けて部屋を出た。
「よし、いくか。ブラハ、しっかり探してくれよ」
ブラハの頭を撫でると、ブラハはまかせろと言わんばかりに一声鳴いて、走りだした。
「ワン!」
ブラハは迷うこともなく、一心に敷地内を走り抜けた。
東方司令部奥にある、倉庫郡。その一角で、ブラハが一声鳴いて止まった。
「ん? ここか?」
ダッシュでもまだ息は切れていない。そんな程度の距離だった。でかい倉庫が立ち並ぶ一角は、オレでもあまり来たことはない。そういや、なんか怪談がどうとか前に大佐が言ってた気がするが。
「まあ、あんまり人はこなさそうな場所だしなあ。サボるにはいい場所かもな」
オレはきょろきょろと辺りを見回した。
ブラハは、誇らしげにオレを見上げた。オレはブラハの頭を撫でてやる。が、見回しても、大佐の影も形も見えない。
「おい、ブラハ。ほんとにここに大佐がいるのか?」
オレが声をかけると、ブラハは、オレの手の下から抜け出して倉庫と倉庫の間の道に入りこんだ。
「おい」
急いで追いかけて、ブラハの入った道を覗き込んだ。とたん、オレは思わず膝から力が抜けて倉庫の壁にすがりつきそうになった。
「ブラハ〜〜〜〜」
「アウ?」
オレの声に、ブラハが掘っている手を止めて振り返った。いくらなんでも土の中にはいるまい。いや、居て欲しくない。
「もしかして、お前の骨の隠し場所か?」
ブラハはもうオレの声にも反応を返さなくなった。一心不乱に土を掘っている。腹でも減っていたのだろうか。
「あー、もういいや。お前はここにいろよ」
オレは、ブラハをそこに残して、本来の人探しを続行するために、倉庫街から抜け出した。
「さて、どこに行ったのやら」
もしかしたらもう移動しちまった可能性もある。
「まあ、そんときはそんときだ」
オレは足の向くまま気の向くまま、倉庫の壁を右手に沿って歩き出した。
そのまま歩くと、倉庫が切れて小さな芝生の広場のような場所に出た。
「へー、こんなとこあるんだ」
オレは、木漏れ日が心地よいその場所に踏み込んだ。あまり人が来ないからだろう。芝生もいい感じに伸びていて、やわらかい感触を足元に伝えた。
「こりゃあ、昼寝でもするにゃもってこい…ん?」
昼寝? もしかして…。
オレは真正面にある木の幹の裏を覗き込んだ。
「やあ。見つかってしまったね」
やあじゃねえっての。今日は覗き込んでばっかりの日だ。
オレは少しだけがっくり来て、オレを見上げて笑っているそいつの隣に座りこんだ。
幹に背を預けて、見つけた探し人をじろりとにらみつけた。
「あんまさぼってばっかだと、ブラハと一緒に首輪で繋いじまうぞ」
「君に繋がれるなら歓迎するがね。ブラハと一緒ではちょっと情けないな」
青い軍服に黒い髪、そして大佐の地位を持っている男が笑いながら言うのを聞いて、オレはやっぱりこいつは馬鹿だと思った。
「オレが繋いでおけるわけねえじゃん」
「そうだね。できれば私が君を繋いでしまいたいくらいだ」
そして、どこにでも連れて行くんだ。
大佐はそんなことを言って、オレの頭を引き寄せると顔をうずめるようにして髪にキスをした。
「あんたは馬鹿だ」
「馬鹿だな」
「救いようがない」
「君が救ってくれるだろう?」
「なんでオレが」
「君は見捨てられない」
余りにもきっぱりと言われて、オレは諦めたようなため息をついた。頭をもたれかからせながら、固い軍服の肌触りを頬に感じていた。
しばらく黙ったまま、木の葉が風で揺れる音を聞いていた。
「ここは、私の秘密の場所だったんだ」
「…へー。いいとこだよな」
オレはなんとなくぼけて来た頭で周りを見回した。木漏れ日が気持ちいい。眠くなってきたのを察したのか、大佐がオレの頬をつまんだ。
「なにすんだよ」
「寝るなよ」
「寝てねーよ」
オレは大きなあくびをして、大佐に寄りかかった。
「みんな、探してたぞ」
「ああ、そうだろうね」
「きっと戻ったら大量の書類が机に山積みだな」
「君は書庫で本を読み漁る気だろう?」
「そうだな。早く読みきっちまわないと」
「では、迎えに行くよ。一緒に帰ろう」
オレが大佐の顔を見上げると、笑ってキスをされた。それから、オレを木の幹に寄りかからせて立ち上がった。
「あまり焦って読んでしまうこともないだろう。もう少し、ここに居てくれ。ここは昼寝にはもってこいの場所なんだ」
見上げた大佐の顔は、逆行で表情が見えなかった。オレがさっき思ったのとおんなじこと言ってやがる。オレは笑って片手を上げた。
「了解」
手を振って背中を見せた大佐に、オレは目をつぶった。目蓋を透かして木漏れ日がまぶしい。少しだけ眠気が襲ってきた。
オレは、ちょっとだけ体をずらして、大佐が座っていた位置に座りなおす。
大佐の体温が少し残っている。それに安心して、また目を閉じた。
明るい場所で見る夢はきっと、昼間の夢。
オレはブラハが迎えに来るまで、そこでしばし昼寝をして、書庫に向かった。
後でアルに連絡しておかなきゃな。
今日は帰れないって。

end



なんかまとまりない文章でごめんなさい。
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