野望
「そういえばさ、こないだちょっと小耳に挟んだんだけど」
「なんだね」
「アンタの野望って、女性全員ミニスカート着用義務にすることなんだって?」
「………」
エドワードの言葉にロイは黙り込んだ。黙り込んだまま書類を片手に固まってしまったロイを呆れたようにエドワードは見やった。
「アンタさあ、わかってねえなあ」
ため息とともに吐き出された言葉は、なんとなく司令部全員が来るだろうと思っていたものとは微妙に違ったニュアンスを持っていた。
普通ならば「バカじゃねえの」だの「なに考えてんだ」だのの蔑みの言葉とともに「無能」の一言でとどめを刺していただろうに。
「…わかってない、とは?」
恐る恐るというようにロイがたずねる。司令部のほかの野郎どもも耳だけはこちらに向けていることだろう。この少年が何を言い出すやら、怖いような楽しみなような、そんな気持ちに違いない。かくいうロイも同じ気持ちだった。
エドワードはそんな野郎たちの様子を知ってか知らずか、椅子の上でふんぞり返った。
「毎日足見てたらありがたみもなんもなくなるっつの。普段はズボンはいてる女の人がたま〜にミニスカートとかはいたりして、足が拝めるからドキっとすんじゃねえの?」
流暢にエドワードは言葉をつむぎだし、司令部の面子の度肝を抜いた。
「…それはどなたの持論かね」
「あん? オレだ、オレ」
ロイが呆然とした表情でたずねると、エドワードは不思議そうな顔で自分を指した。
「えーーー!?」
「え? なに? なんだ!?」
司令部の野郎どもは、思わず椅子を蹴倒して、エドワードを注視した。一斉に注がれた視線に、エドワードもたじろぐ。
「ごほん」
ロイが咳払いをすると、野郎どもはおとなしく席に着いた。だがもちろん意識は耳に集中している。
女の子について一家言あるような人物とはとても思えなかったのに。
思わぬダークホース。それがみんなの意見だったろう。
「いや、すばらしい持論だな、鋼の。だが、一つ忘れているぞ。スカートで歩き回る女性の動きの優雅なこと。そして、一番の真価を発揮するのはモノを拾うとき。それに限る」
ロイがこぶしを握りしめて力説するのをエドワードは、呆れたように眺めた。
「優雅ぁ? そんなの軍人の女性に求めんな。物を拾うときなんてそうそうありゃしねえ。…あ、あんまないからレアなのか」
エドワードはふと気づいたようにあごに手を当てる。ロイや他の面子はうんうんと揃ったように頷いていた。
「けどそりゃあつまり、パンツが見てえって話だろ?」
「…ずいぶん直接的だな」
今度はロイが呆れ顔になる。が、とうとう我慢できなくなったようにハボックが席を立った。エドワードがこういう話でもオッケーというなら黙っている理由がない。
「ちょっと待ってくださいよ。パンツが重要なんじゃなくて、なんつーかしゃがんだ時にスカートが上がって見える太ももにオレはときめきます!」
ハボックが言うと、他の面子からも同意の声があがり、ロイはあごに手を当てて、うなった。
「ふむ。それは一理ある。男にはない、あの流線形のゆるやかなカーブは鑑賞に値するものではあるな」
「じゃあ、言い換える。つまり、隠れている部分がちらりとたまに見えるのがいいってことだ」
ハボックの言葉を受けて、エドワードが修正すると、野郎どもは揃って手を上げた。
「そのとおり!」
「そんなもんかねえ。ウィンリィなんてばんばん足やら手やら肩やら出してるから見慣れちまってありがたみもなんもあったもんじゃねえ」
エドワードはため息交じりに呟いた。
「ああ、確かにあのお嬢さんはなかなか露出が高いな」
うらやましいことじゃないか。
ロイがちらりと視線を流すと、エドワードはしかめっつらになった。
「ああいうのをずっと見てると、ほかの女の人が露出しててもなんも思わなくなっちまうんだよ。あいつの策略なんじゃねえかって気がしてきたんだけどな、最近」
他の女に目が行かないように。
「…それはなんとも大胆な戦略だな」
「でもあいつの場合はただ単に動きやすいからってのと、多分気にしてねえんだ、なんも」
なにせ往来で人のことパンツ一丁にさせる女だからな。

………。
司令部の面子の目が点になった。
とたん、エドワードの頭にガンっと何かが飛んできた。
「いでえ!!」
「あたしがなんですってぇ!? てかあんたのパンツなんて見慣れちゃって、こっちこそありがたみもなんもないってもんよ!」
嵐のように駆け込んできたウィンリィは、予備のスパナを片手に振り上げて、エドワードに抗議している。
「…そもそも男のパンツにありがたみは欠片もないが…」
呆然としている面子の前で繰り広げられる言葉の応酬は、まるで兄弟喧嘩のようだった。ロイは、二人を見やって、呆れたように呟く。
「そんなことはございません。男性も隠されている部分が多いのですから。足とか腕とかたまに見せられればドキッとするんじゃないでしょうか」
「ホ、ホークアイ中尉…。君たちはいつから聞いて…?」
「はっきり申し上げますと、最初から」
にっこりと笑うホークアイ中尉に司令部の野郎どもは背筋を冷やした。
「女性がミニスカートになるなら、男性はぜひ、異国の「キモノ」とやらを着用義務にしてください」
「…それはなぜだね」
「ふふ。それは秘密です」
ホークアイはにやりと口元だけで笑う。
ロイは、ぞっとしたものを感じて慌てて書類に目を落とした。
「やっぱ女はこええな、大佐」
やっとウィンリィから解放されて、どさっとロイの横の椅子に身を預けたエドワードが、ちらりとロイを伺う。
「女性の方が男性よりもえげつないことを考えているというしな」
ロイとエドワードは顔を見合わせて揃ったため息を吐き出した。
二人の眼前では、とりなすように野郎どもがお菓子やら飲み物やらを差し出している。
その中心人物たちは、にこにこと笑っているが、目が怖い気がするのは自分らの抱える負い目のせいか。

男も女も考えてることは大して変わりはないもんだ、そう学んだ有意義な休み時間だった。
ロイもエドワードも顔を見合わせて、揃えたように重いため息をついたのだった。

end



通勤中にぱっと思いついた話(笑)エドの持論は私の持論です(爆笑)
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