無意識
彼の駅に、最終列車が到着時間を随分すぎてから滑り込んできた。
いささか急ブレーキ気味になったのは運転手のさっさと帰りたいという気持ちの表れか。
エドワードは、降りる準備をしていたために立ち上がったところに来た揺れに対応しきれずにしたたか腰を座席の背に打ち付けた。
「いってー!」
「大丈夫?」
少々笑みの混じった声で心配の声を掛けてくる鎧姿のアルフォンスに手を振って見せて、エドワードはしっかりと足を踏ん張った。
ずきりと訴えてくる痛みは無視することにして、エドワードはトランクを弟の手に押し付けて、扉へと向かう。
「まったく、こんなに遅くなった上にこの仕打ちかよ」
ぶつくさと文句を言いつつ、扉を開けてやっと揺れない地面に降り立った。
「しょうがないよ、列車が遅れたのは運転手さんのせいじゃないし」
「まあなあ」
線路の途中に牛が寝ていたのをどかすために、大分手間取ったのだと聞いた。
それでは誰のせいにも出来ないため、乗客は文句も言わずに待っていたのだが。それにしても、通常よりテロやら故障やらが多いため、おおむね列車が時間通りに運行することは無いのを知っているからだろうが。
「さて、どうするかな」
「宿、空いてるかなあ」
ここは、イーストシティ。通いなれた街だ。
いざとなれば東方司令部にだれか居るだろうし、宿直室を借りてもいい。
「とりあえず電話してみっか」
「そうだね。心配してるかもしれないしね」
「誰が」
列車に乗る前に連絡をしたっきりだったのを思い出して、エドワードは顔をしかめた。
連絡をした相手は、東方司令部の大佐の肩書きを持つ男。
泥沼の中に居たエドワードを力ずくで引き上げ、消えていた焔に無理やり火をつけた野郎。
「列車の遅延なんてあっちはとうに把握済みだろうよ。どうせなら迎えでも寄こしてくれりゃいいと思わねえか?」
「なに言ってるのさ。みんな忙しいんだろうから邪魔なんかしちゃだめでしょ」
アルフォンスの言葉はいつも正論だ。
エドワードはふてくされたようにそっぽを向いて、へいへい、と適当な相槌でごまかした。

駅の構内で公衆電話を見つけて、手帳を開く。
コードと取り次ぎ先を告げると、暫くしてぶちっという音と共に低い声が聞こえてきた。
『マスタングだが』
こんな深夜だというのに、昼間に電話した時と変わらない声。
エドワードは電話を握る手に力が篭るのを自覚しながら、努めて平静な声で応じた。
「エルリック兄弟、イーストシティに着いたから」
『ああ、ご苦労だったようだね。とりあえず、これから宿を取るのも大変だろうから今日は私の家に泊まるといい』
「は?」
滑らかに流れるように告げられた言葉に、エドワードの脳みそが一瞬考えることを放棄した。
『駅からならそんなに時間はかからない。私も今日はこれで終わりだから迎えに行ってやろう。そこで待ってなさい』
「え、ちょっ、ま…」
『それでは後ほどな』
人の話をここまで聞かない奴だっただろうか。エドワードはさっさと切れた受話器を耳から放してじっと見つめた。
「どうしたの? 兄さん」
「迎え、来るって」
「え? 誰が?」
「大佐」
呆然としたような、という表現がぴったりな様子に、アルフォンスも軽く途方に暮れた。どこをどうしたら大佐自らが迎えに来るという話になるのだろうか。
「司令部にでも泊めてもらえる話になったの?」
「いや…大佐んちだって」
「えええ!?」
アルフォンスは目をせわしなく瞬かせた。
「仮にも佐官の家にそう軽々しく泊めていいの!?」
「しらねーよ。アイツがそう言ったんだから」
まだ手に持ったままだった受話器を戻すと、使い切らなかった硬貨が戻ってくる。
エドワードは受話器の代わりとばかりに硬貨を握りしめて、大きなため息をついた。
「あいつ、俺たちのこと親戚のガキかなんかだと勘違いしてんじゃねえの?」
「あははー。ありえるねー」
一応、エドワードは軍属なんだから上官と部下という垣根はあるはずだ。
実際エドワードにその意識はあるかと言われれば、日常は忘れていると言っても過言ではない有様だが。
「しょうがないから今日はこっそり厚意に甘えちゃうしかないんだろうね」
「だろうな」
二人は、御大が迎えに来るまでその場でため息をつきながら「ここの司令部は大丈夫だろうか」という話で盛り上がっていた。


駅から車で10分程度で目的地についた。
ロイは、家の前で二人を降ろした後車を入れてくると言って、鍵をエドワードの手に落として行ってしまった。
「ますます心配になってきたぜ」
「…兄さんが信じられてるんだ、ってことにしようよ」
これ以上心配の種を増やしたくないとばかりにアルフォンスはエドワードの手の中の鍵を見つめた。
左手に掴んだ小さくて冷たい鍵は、ロイのテリトリーへ侵入する鍵。
エドワードはアルフォンスに気付かれないように一瞬だけ唇を噛んだ。
ロイに対して抱いている感情は、反発。それ以外にはない。
そう頑なに信じていたエドワードは、鍵を手にしてから落ち着かない心の動きに戸惑っていた。
――なに、考えてんだ。
鍵なんて宿のもの以外、ろくに持ったことがない。
リゼンブールの田舎では鍵を掛ける必要もなかったし、もうその家もない。
宿の鍵だって、うっかりすれば忘れそうになるくらいなじみのないものだ。
鍵は、重い。
小さくて実際の重量があるわけでもない。
のに、意味が、重い。
鍵を掛けてあるということは、許された者にしか開けることは許されていないわけで。
鍵を持っていない者がそれを開けようと思えば、こわす、しかない。
錬金術師であるエドワードには鍵なんてものは実はそんなに重要ではない。だからこそ、手渡されたこの鍵の意味が、重い。
入ってもいいよ。
そう許された証だから。
「兄さん?」
アルフォンスが怪訝そうに問いかけてくるのに、ハッとしたように手の中の鍵を握りしめた。
「ああ、いや。なんでもねえ」
「そう?」
エドワードは、覚悟を決めて鍵を開ける。
ドアを開けて覗き込んだ暗い家は、あまり人が住んでいるという気配を感じなかった。
玄関を入って近くの部屋を覗きこめば、そこがリビングだったらしく、テーブルに置かれたままのカップが所在なさげにたたずんでいた。
「えーっと、灯りは」
エドワードとアルフォンスがきょろきょろとしていると、どこからか火花が綺麗に軌跡を描いて暗闇に飛んだ。
「うおっ!」
びっくりして飛びのいたエドワードの鼻先を掠めて、目の前の暖炉に火が点った。
乾燥していた薪は高温の焔の前に、一気に燃え上がる。
「ただいま」
魔法のようなその出来事に暫し呆然としていた二人は、後ろから聞こえた声に反射的に振り返った。
「なにすんだ、あぶねーな!」
「親切で灯りをつけてあげたんじゃないか」
「…あんたんちだろうが。親切もなんもねえよ。当たり前だろ」
「では言葉を変えようか。こんな深夜で宿もない子供二人に気前良く泊まる場所を提供してあげた私に感謝の一つもないのかね?」
ロイは入り口の壁にもたれかかるようにして、腕を組んでいる。その手には発火布の手袋がしっかりとはめられている。
「…それだってアンタが勝手に決めたことじゃねえか。オレたちは仮眠室でも借りれりゃよかったんだ」
「あいにく、仮眠室は満員御礼だ」
「…へー」
嫌味ったらしいロイの表情に、エドワードのこめかみに青すじが浮いた。
アルフォンスは、二人を交互に見やって慌てて間に入る。
「あ、あの! 大佐。本当にありがとうございました。ボクはともかく兄さんが野宿なんてこの季節じゃ無謀だったんで」
「さすがアルフォンスは礼儀をわきまえてるな」
ロイは発火布の手袋を脱ぎながら、微笑んでアルフォンスを見やる。それから、ちらりとエドワードに視線を移した。
エドワードは、強い反発を覚えて睨みつけた。
どうしたって感謝の言葉は口にできない。たとえ、心の中では感謝していても。
持ち前の天邪鬼と反発心がその言葉を口に乗せることを断固拒否していた。
「まあ、いい。好きにくつろいでいたまえ。食べるものはキッチンになにかしらあるだろうから適当にしててもらってかまわない」
そういい置いて、廊下の奥に進もうともたれていた壁から体を起こしたロイに、エドワードはハッとしたように顔を上げた。
「アンタ、飯は?」
「…いや、まだだが」
「じゃあ、何か作ってやる。適当にしていいっつったよな。キッチン借りるぜ」
驚いたようなロイの顔を見ることが出来なくて、エドワードはコートを近くのソファに脱ぎ捨てて、さっさとキッチンの方へ歩いて行った。
「アルフォンス、鋼のは料理はできるのかね?」
「ええ、上手いですよ。もともと器用なので」
呆然としたようなロイの言葉に、アルフォンスはくすくすと笑いながら答えた。
「素直じゃないんだから」
「等価交換だ!!」
アルフォンスの言葉を聞きつけたのか、エドワードがキッチンから顔だけ覗かせて怒鳴った。
その様子に、ロイとアルフォンスは顔を見合わせて微笑った。


意外な才能と言うべきか、エドワードの作るものは大雑把そうに見えて、味はよかった。素朴な味とでも言っていいものかは分からないが、家庭料理とはこういうものなのだろうなと感じさせるような。とにかく、ロイの好みには合っていた。
食事の場では特になにごとも起こらず、相変わらずわいわいと兄弟二人でしゃべっているのを聞きながら、時には疑問を交えて楽しく過ごした。
「ところでさ、さっきからずっと気になってたんだけど」
「なんだね」
食後の珈琲をすすりながら、暖炉の前に陣取ったエドワードがなにやら手に本を持っている。その表紙を見て、ロイは納得したように笑みを浮かべた。
「読んでもかまわんよ。そんなものまで読みたかったのか、君は」
随分昔に手に入れたものだった。最近になってまた読みたくなって、今のエドワードと同じように暖炉の前で寝転びながら読んでいたものだった。
置きっぱなしになっていたのをエドワードが見つけても可笑しくはない。
エドワードは一瞬心底嬉しそうな顔を見せて、すぐに瞳をきらめかせた。
その瞳には、期待、希望、願望の光がない交ぜになって浮かんでいる。
ロイは書籍に没頭しはじめたエドワードを見て、気付かれないように一つため息をついた。
この子供の背負っているものは、重い。
人の命が懸かっているものだ。
弟を元に戻す。きっと自分のことは後回しに違いない。実際、機械鎧で生活をしている人はたくさんいるのだし、普通の生活に戻ることは難しくない。だが、全身鎧という人物はそうはいない。普通の生活に紛れることは難しい。しかもその中身が空っぽだというならばなおさら。人としての5感のうち、視覚と聴覚以外が感じられないのであれば。
それを取り戻してやりたいと願うのは当たり前のことなのだろう。
生きていればよい、そんな生ぬるいことでは満足できないのがこの子供だ。
子供だからこそ、だろうか。
ロイはそんなことをつらつらと考えながら、二人を交互に見る。
アルフォンスもその辺にあったものを読んでいる。
仮にも錬金術師の軍の佐官の家だ。ここには寝に帰っているようなものだと言っても貴重な書籍は多い。
二人にしてみれば結構な宝庫と言えなくも無い。
「書斎にも本は沢山あるから好きなものを読んでかまわないよ」
「本当ですか?」
「ああ」
顔を上げたのは、アルフォンスのみ。エドワードは本の世界に行ったままピクリとも動かなかった。
「書斎はここを出てすぐの部屋だ」
「ありがとうございます」
アルフォンスは立ち上がって会釈をすると、そのままリビングを出て行った。
ロイは、手持ち無沙汰にコーヒーをすすっている。
「なあ、なんでオレたちを泊める気になったんだ?」
本の世界に没頭していると思っていたエドワードの突然の問いに、ロイは驚いて目を見開いた。
見れば、エドワードは本から目を上げていて、こちらをじっと見ている。まるでどんな嘘も見抜いてやるとばかりに。
挑まれるようなその瞳が、ロイは嫌いではなかった。
金色のまなざしが、今は暖炉の明かりを反射して朱金にも見える。
「なんでだろうな。哀れにでも思ったかな」
「自分のことなのにわかんねえのかよ。てかさ、アンタ、仮にも大佐だろ? こんなにほいほい家に上げていいのかよ」
エドワードの口調はいらだったときのそれに似ている。ロイはその様子に少しだけおや? という思いがして首をかしげた。
「ほいほいなんて上げるものか。家に招いたのは君たちが最初だよ。ただし、佐官が家に誰も呼んではいけないなんて法律はないがな。ヒューズを見てみろ」
ロイの言葉に、エドワードの目から険が消えた。あからさまに安心したような顔をされて、ロイの方が戸惑う。
「そっか。そういやヒューズ中佐は家に泊めるの好きだったもんな」
エドワードの表情はすぐにいつものものに戻って、笑みを見せる。ロイはその表情の変化に新鮮な気持ちになって、目が離せなくなった。
「あれ? そういやアルは?」
「書斎に行ったよ」
「なに!?」
慌てて立ち上がったエドワードに書斎の位置を教えてやって、ロイはコーヒーに目を落とした。
リビングを出て行ったエドワードの気配が消えて、いつもと同じ一人の沈黙が降りる。
誰かとこの家にいることが信じられなかった。
「なかなか悪くない」
ロイは心境の変化を楽しむかのように微笑って、暖炉の火を見つめていた。


もう日の出が近いという時刻になっても、暖炉の前に陣取った二人は書籍に没頭していた。二人の前に積み上げられた本は絶妙なバランスでその高さを保っている。
ふと、エドワードが顔を上げる。
その目は半分ほどしか開いていない。流石に二日間徹夜したままで列車に乗ったのは応えたのだろうか。
「あー、だめだ。寝る。寝てまた読む」
その声にも力が入っていない。周りを見回すと、アルフォンスもロイも本の世界に没頭していた。
「大佐ぁ、オレここで寝ていいか?」
「寝室はここを出て一番奥の部屋だ」
「りょーかい」
本に目を落としたまま、ロイがしっかりした声で告げた内容に何も考えずにエドワードはリビングを後にした。
数秒後、ロイががばっと顔を上げる。
「アルフォンス、今私は何と鋼のに教えていたかね」
「ここを出て一番奥の部屋って教えてましたよ」
アルフォンスの言葉にロイが固まる。だがすぐに諦めたようにソファの背もたれに沈み込んだ。
「…まあ、いいか」
ポツリともらした声に、アルフォンスが首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「…いや、なんでもないよ」
「あ、そういえば。大佐は寝なくていいんですか? 明日…というか今日ですけど、仕事なんじゃあ」
アルフォンスの言葉にゆるりと瞳を動かして、ロイは心ここに有らずというように笑む。
「休みなんだ。まあ、だからこそ君たちを泊めてやろうかという気にもなったんだがね」
「そうなんですか。よかった」
アルフォンスの安心したような言葉を聞いて、ロイは目を閉じた。
自分の無意識が言わせた場所は…。
ロイは、そこまで自分がエドワードのことを受け入れている事実に愕然としつつも、笑みを押さえられないことに気付いた。
久々の感覚に、ロイは知らず笑みを浮かべていた。


「失礼しますよー」
エドワードは半分以上寝ぼけたように扉を押し開いた。
口に出したのは、欠片なりともここが人の家だということを認識していた証拠か。
大きなあくびが出そうになるのをかみ殺して、すんなりと開いた扉をくぐって閉める。
鍵はついているが特に閉める必要もないだろう。
エドワードは暫くそこに立ち尽くして部屋をぐるり見回した。
色彩は暗い。小さなオレンジ色の灯りが机の上に点って、部屋の中を照らしていた。
机は大きくてどっしりとした印象を与えている。その上にはランプと書籍が無造作に積み上げられている。それらはなんとはなしにこの部屋に調和した感じで散らかっているという印象はなかった。
そして、真ん中にあるベッドに目をやって、エドワードは違和感を覚えた。
「…なんで軍服があるんだ」
もしかして嫌がらせか。などと不敬なことを思いつつ、軍服の上着を手にして拡げてみた。階級章は大佐。
「んー?」
首を傾げつつ、エドワードは再度部屋を見回してみた。
錬金術に関する書籍、クローゼットは半分開いていて、中には見たことのある服がかかっている。
「…私室…?」
エドワードは呟いて、それから後慌てたように軍服を放り投げ、扉へ飛びついた。
だが、その扉を開く前にハッと我に返って扉に背を押し付けた。そのまま左手で目元を覆って天井を仰ぐ。
「アイツも疲れてやがんのかな」
こんなところにまでオレを呼び込んで…。
呟きは、声にならずに消えた。
すぐにでもこの部屋を飛び出して客間の場所を聞けばいいのに、エドワードはかすかに赤く染まった頬をもてあましつつも何故かこの部屋を出て行く気にはなれなかった。
なにも気付かなかった振りすればいい。そうしよう。
エドワードは、ため息を吐いてブーツを脱ぎながらベッドにもぐりこんだ。
もしかしたら眠れないかも、という考えは杞憂に終わった。
固めのスプリングが利いたベッドに、柔らかな毛布が心地よすぎた。
ふわりと嗅ぎなれたコロンの匂いがエドワードの頭に霞を拡げていく。
司令部で香る匂い。
軍服からだろうか。エドワードはどこか安心する気持ちを覚えて眠りに引き込まれる瞬間、知らず左手で軍服を掴んでいた。


さすがに最後までアルフォンスに付き合うには、体力が足りなかったらしい。
朝方になって眠さに根負けしたロイは、アルフォンスに断ってふらふらと自室へと向かった。
昔ならばこんな徹夜、なんでもなかったが…。
と頭の片隅で思いながら、大きなあくびを漏らした。
無論、仕事でならば何日も徹夜しても平気だが。
ベッドの心地よさの中で味わう睡眠を思い浮かべながら、扉を開ける。
見慣れた景色の中に、見たことのないものを見て、ロイは動きを止めた。
眠さが見せた幻か。
そう思ったのは一瞬。すぐに、ベッドの住人になっている人物に思い当たって、ロイは頬を緩ませた。
「忘れていたな」
呟いて、ベッドに近づくと、その人物は軍服を抱き込むようにして心地良さそうに眠っていた。
「なんだそれは」
ロイは面食らったように呆れた声を出して大きく緩みそうになった頬に、片手で掴むように口元を覆った。
エドワードのことだからすぐに気付いて怒鳴り込んでくるかと思いきや、静かに扉は閉まったままだったし、すっかり自室に案内していたことなど忘れていたというのに。
ロイのベッドだと知らずに眠ったのだろうか。
いや、気付かないわけがない。いくら眠かろうと、そこまで判断能力を鈍らせることはできないはずだ。ロイは自分と照らし合わせてそう断定する。
だが、それでは何故…?
とここで思考は止まった。
暫くそのまま考えてみるが、一向に答えは出ない。
鈍くなった思考ではいくら考えても答えは出ないのだろう。
「私と同じで、君もいくらかは私に心を開いてくれていると考えてもいいのかね」
ロイは自分にいいように解釈することにして、幸せそうに睡眠を貪る金髪を軽く撫でた。
エドワードは幸せな夢でも見ているのだろうか。普段は絶対に見せないような笑顔を浮かべている。
ロイはその顔を見ながら、何の準備もしていなかった心に生まれたものに動揺した。
「冗談じゃない…」
落とされた呟きは、かすかに掠れた響きを帯びた。
ロイは、一つ大きなため息を吐くと、ベッドに寄りかかるようにして座り込んだ。
そしてそのまま目を閉じて思考に幕を下ろす。


――二人の心に芽生えたお互いへの疑問はこれから成長していく。

end


うかつなロイさん。
まだ二人は出来上がってません(笑)
そんな話。
ハガレンSSのindexに戻る
SSのindexに戻る