3 視界、遮断


赤い紅い炎が、辺りを夕焼けの色に染める。
街も、山も、何もかもをその身に取りこんで、天に還す。
幸村の身もその炎に溶け込むような赤備えで固められている。
炎の化身。
その姿を見たものは、そう思ったと言う。
通常の兵士ならば熱気で立っていられないほどの炎の中でも、冷たいまでの笑みを口元に刷いて炎をまとった槍を振う。
長い後ろ髪が炎に焼けぬのが不思議なほど、幸村は炎を恐れず走り抜ける。
「炎の神の加護でもあるのだろうか」
武田軍の中でもそう囁くものがあるほどに。


青い蒼い稲妻が、辺りを真昼のように明るく照らし出す。
人も、馬も、何者をもその場に縫いとめ、地に這わせる。
政宗の身は白く染め上げられた中でも色を失わぬ、蒼で彩られている。
隻眼の龍。
その姿を見たものは、政宗の異様な姿に圧倒され、声を失う。
遠くから見ると大きな大きな爪に見える六本の刀が閃いた。
走り抜けて後、兵士たちが空に舞い上げられるのが見えた。
影の中にあってもぎらぎらと闘志の宿る独眼が味方の士気を上げる。
「筆頭の前に立つからだよ!」
伊達軍の皆がそう叫び震えるほどに。

大勢の人間がひしめく広い戦場の端でも赤と青の竜巻は、兵士たちにその存在を示していた。だが、進んでその姿を拝みに行こうとするものはいない。
「どけどけどけぃ!!」
赤い炎は熱を撒き散らしながら、人々を跳ね飛ばして走り抜ける。
「死にたくねぇなら、大将の後ろにでも隠れてな!」
青い竜巻は風をまとい、戦場を駆け抜ける。
二人が駆け抜けた後には、幾人もの屍が転がっていた。
「あーあー、相変わらず派手だねえ」
高い樹の上から眺めていた、武田軍の忍びはため息をつく。
「政宗様!」
転じて、伊達軍の参謀兼頭領のお守りは、必死で駆け抜ける頭の後を追っていた。
戦は地獄を極める。
炎が舞い、雷が空を染める。雨が降っていないのがせめてもの救いか。
両者、まっすぐに相手の陣へ殴りこむ気で駆け抜けている。
気迫が漲り渦を巻く。
空には雲が集まり始めた。
近づくにつれ、気迫がぶつかり、気流が発生していた。
「あんなとこ近づけるか!!」
兵士たちは逃げ惑い、右往左往している。
「うおおおおおお!」
「Here we go!」
二人の両雄は戦場のど真ん中でぶつかる。
瞬間、炎と雷の気迫が爆発した。
「真田、幸村ぁ!」
「伊達、政宗ぇ!」
二人は譲らず、気迫は十分だった。空がいよいよ渦を巻いて、空を暗くする。
「勝負!!」
叫びは、お互いの口から発せられる。
大地が、両雄の気迫に震えた。


固唾を飲んで見守る群集の中、両雄は気迫もそのままににらみ合った。
勝負は、互角。
六爪と二槍が火花を散らしてぶつかり合うこと数合。
ついに両者にらみ合いになって、気迫の勝負となった。
「hey、幸村」
ギリギリと引き絞られるような緊張を強いられる鍔競り合いの中で、独眼が光る。
真正面からその眼光を受け止めて、幸村は強い視線を返した。
「次の一撃、当てた方が勝ち。それでどうだ」
「勝負はやるかやられるかでござる。そんな勝負受けるわけにはゆかぬ!」
からかうような政宗の口調に、幸村は静かな声で言い放つ。
「勝負じゃねえ。賭けだ、賭け。アンタが勝ったら俺を好きにすればいい。この首持ってってもかまわねえ。ただし、俺が勝ったら…」
そこで一旦言葉を切ってにやりと笑う。幸村が奥歯をギリッと音がするほど噛み締めた。
政宗の話を最後まで聞く気はない。
矯めた力を放出するようにして、政宗の刀を弾いた。
「ヒュウ」
後ろに飛びのいた政宗は、口笛を吹いて片目で哂う。
「ふざけるのは大概になされ!」
幸村が叫ぶ。政宗は、片目を眇めて幸村を見つめた。
「ふざけてなんざいねえよ」
間合いを計って、力を溜める。政宗の気迫が大きくなった気がした。対して幸村の気迫は赤く染まる。
両者の一撃は天を揺るがす。誰もがそう感じた。
「Are you ready?」
政宗が唇を舐める。幸村が唇を噛み締める。
「GO!!」
咆えて、飛び出す。最後の一撃となるだろう攻撃は、光と稲妻を放ち、群集の目を灼いた。


戦場は、伊達軍頭領、伊達政宗が刀を引いたことで収束した。
武田軍は伊達の引き様を見て、深追いすることなく馬を引く。
「なんじゃ、伊達の小せがれは何を考えておるのだ」
「竜の旦那は、うちの旦那と戦うのが好きみたいだからねえ。案外そんな理由かもしれませんよ」
信玄と佐助は、引いていく伊達軍を見てはた迷惑な、と揃ってため息をついた。
「ところで、佐助。その幸村はどうした」
信玄が振り向くと、佐助はひょいと肩をすくめてみせた。
「竜の旦那との一騎打ちで最後一太刀もらっちゃったからどっかでへこんでんじゃないですか?」
「ふむ。それも一理あるやもしれんな。姿を見せるまではそっとしておいてやるか」
武田陣地にいたことは佐助が確認している。一太刀もらったと言っても、佐助が見た限りでは鎧を通すほどではなかった。打撲程度にはなっているかもしれないが、一晩冷やせば大丈夫だろう。
それに…。戦明けの幸村の困った癖が佐助の頭をよぎる。
今頃どっかの兵士を捕まえているかもしれない。佐助は頭を振って、それ以上の思考を断ち切った。
「さあて、うちも帰る準備しましょうか」
「頼んだぞ、佐助」
「はーいはいっと」
信玄が腕を組んで前方を睨みつけている後ろで、佐助の姿が掻き消えた。


幸村は悔しさに唇を噛み締める。
あの最後の一撃。
確かに六爪を受け止めたと思った。流して、自分の槍が政宗の兜に届く寸前で阻まれた。一瞬で弾かれ、右腕の三爪で下から胴をなで斬りにされた。刃が幸村の胴巻を滑り、頬を掠めた。わずかな傷をつけたにとどまったその一撃は、それでも一撃。
振り払った刀の向こうで、政宗の口元が笑みの形に歪んだのを幸村は見た。
「伊達政宗…。やはり、強い」
あの一撃は、全力のそれを喰らえば確実に幸村は真っ二つにされていただろう。
生かすも殺すも力の入れ具合で変わる事を知らしめた一撃に違いない。
幸村はそれが悔しい。
ギリっと奥歯を噛み締めて、槍を握る。
体の熱は、悔しさとなって、幸村を苛んだ。今まではその辺にいる武田軍の兵士を捕まえて晴らしていた熱も、今日ばかりはそんな気にもなれない。
負けた、と感じたのは初めてだった。
くやしい。
素直にそう思い、幸村は立ち上がった。
槍を握る手に力を込めて、目の前に立ちはだかる独眼の影に向かって振り下ろす。
「次こそは!」
ブンッと風を斬る音が響く。遠くで聴こえる馬の嘶きや鎧武者の立てる音が意識の外に追いやられていく。神経が研ぎ澄まされるような、霞がかっていくようなそんな気がした。一心不乱に槍を振う幸村の後ろからふいに、刀が耳を掠めた。
「っ!」
間一髪で避けた幸村は差し出されたままの刀を横目で見る。刃は幸村の方に立てられていた。すうっと背筋が凍る。だが、刃に映った色を見てとって、幸村はハッと目を見開いた。
「よお、熱心なことで」
「なぜ、貴様がここに」
目に入った色は、蒼。ここにはいないはずの男が幸村の後ろに居る。幸村はギロッと刃ごしに睨みつける。
「賭けに勝った褒美を貰い受けにきてやったんじゃねえか」
「拙者は賭けに乗った覚えはない」
「ha! 負けたやつがそれを言うのか」
鼻先で笑われて、幸村が唇を噛んだ。
「…わかった。首でもなんでも持っていくがいい!」
刃を恐れずに振り返る。振り返りざま槍を振うと、政宗は槍の柄を腕で受け止めた。
「おーおー、威勢のいいこって」
「くっ」
なんなくあしらわれて、幸村の顔が歪む。
「まあ、それくらいの方が俺も楽しめるってもんだぜ」
「なにっ…っ!」
極限まで達した怒りに幸村が叫ぶ口を、政宗は無理やり引き寄せて己の唇で塞いだ。
刀を持ったまま、幸村の上腕から押さえ込むように抱きこんで深く貪る。幸村の口内は感情のままに熱い。奥に逃げようとする舌を絡めて、腰を引き寄せた。
ぴったりと合わさる体は、幸村の抵抗を奪う。
「んっ! …や、め…!」
わずかな隙を縫った言葉も全て飲み込んで、政宗は幸村の意志を奪うかのように口内を蹂躙する。
余りの激しさに飲み下しきれない唾液が、口の端から首に伝った。幸村が槍をすがるように握り締めたまま離さないのを、政宗がいらついたようにちらりと見やる。
唇を離して、次の瞬間足払いを掛けて幸村を引き倒す。
「ぐっ!」
槍ごと倒れこんだ幸村の手を蹴って、槍を放させた。遠くに蹴られた槍を見やって、幸村はぎらりと政宗を見上げる。何をされるかなんて、考えなくとも分かる。
政宗とは一度戦場以外で出会っていた。あの時には既に予感がしていたのかもしれない。再びこんなことになるのではないかと。
幸村はにらみ上げた先にある、独眼の光の鋭さにぞくっと背筋が震えるのを感じた。だが、表には出さない。今は敵同士。敵に体を預けるなどという真似は武田軍に席を置く以上できるわけがない。
「さすが真田幸村。その目、たまんねえな」
舌なめずりをする政宗の目は、猫が獲物をすぐには殺さず遊ぶ目に似ている。口元に笑みを佩いて、幸村を品定めするように見下ろしていたかと思うと、刀で鎧の継ぎ目を切られた。
「面倒なのは嫌いでね。自分で脱いでくれると助かるんだがな」
「だれがっ!」
政宗の言葉に、幸村が上半身を起こし、激昂したように叫ぶ。
そんな屈辱を味わうくらいなら死んだ方がまし、そんな決意の表情で政宗を見上げる。
政宗は片目を眇めて見せて、ひょいと戦場の方を向いた。
「なら、アンタの大事なお舘さまとやらの首でも持ってきたら、アンタは進んで俺に身をささげるか?」
にやりと笑って横目でちらりと見下ろした政宗に、幸村が上半身を起こした。
「お舘さまは貴様などにやられるようなお方ではないわ!」
「じゃあ、試してみるか?」
カチリと鍔を鳴らして、政宗が哂う。幸村はせっかく収束した戦を自分のために再度起こそうと考える男に目を見開く。
「貴様…!」
自分の身か、戦か。
幸村の身がそんなはかりに掛けられる程の価値があるのか?
幸村は軽く混乱した。
ここまでして、この男は何を考えているのか。
幸村は悔しさに唇を噛み締めながら、鎧に手を掛けた。
見下ろす政宗の眼光が痛い。手甲も具足も外して、地面をにらみ付けるようにうつむいた。
「Okey! やりゃあできるじゃねえか」
舌なめずりをしながら政宗が幸村の前にしゃがみこむ。うつむいた幸村の顎を掴んで、真正面から見据えた。
幸村も負けじと睨み返す。ふと政宗の目が笑みに歪んだ。
顔が近づく。接吻けられることを覚悟して身構えた幸村の予想を裏切るように、すっと顔を傾けて、むき出しの肩に噛み付いた。
「っ…!」
思わず身を引いた幸村の腰を引き寄せた。
肩から首筋に舌を這わせて、耳たぶを噛む。ぞくぞくと背を走るものに、幸村は唇を噛んだ。熱が上がる。
戦明けの興奮と、悔しさがないまぜになった感情が幸村を煽った。
敵である男に抱かれる屈辱は、負け戦よりもなによりも幸村の身を焦がす。
抵抗は無駄だと知りつつも、顔を背けた。
「そんなに悔しいかい?」
耳朶に直接吹き込まれる囁きは笑いを帯びていて、幸村はこぶしを握った。
筋肉の動きでそれを察したのか、政宗が短く口笛を吹いた。
「アンタ、やっぱりいいねえ」
「なにをっ…」
幸村の戸惑いを無視して、政宗は帯で幸村の両手首を背中でまとめて縛り上げた。
そして、幸村の鉢巻をずらして、目を覆う。視界を奪われて、両手の自由も奪われて、幸村はなす術もなく政宗の手の中に落ちていく。
「ふざけるなっ!」
腹の底から怒鳴りつけるが、政宗は無言のまま幸村の体をひっくり返した。
「ぐっ!」
地べたに頬を打ち付けて、うめく。
「抵抗されんのも悪くはねえが、あんまり時間もねえ。人が探しに来たら困るのはアンタだろ?」
背中から覆いかぶさるようにして腰を抱え上げられる。政宗の口調はどこか楽しそうに響いた。全ての抵抗を封じられ、幸村は下穿きを取られてもなにも出来ずに覆い隠された目を閉じた。
「いくぜ?」
問いかけた声は優しく響く。が、慣らしもしないで楔を穿たれて、幸村は衝撃に歯を食いしばった。
「ひゅう。流石にきついぜ。でも、入ったぜ」
相当淫乱な体だな。耳元で揶揄するように囁く声に、幸村は歯を食いしばったまま耐えた。
「いい声聞かせなよ、幸村」
「だっれがっ…はっ!」
視界を遮断された今、相手が政宗である確証はその声のみ。幸村は無理に顔を捻って、鉢巻の下からにらみ付ける。瞬間、政宗の手が、幸村の物を握った。
「ふっ!」
快楽などどこにもなかったはずなのに、幸村の物は確かに欲望の兆しを見せている。政宗は唇を舐めて、手の中の物を軽くしごいた。
「はん、こんなんされても余裕でイけそうだなあ、幸村?」
「だまれっ!」
揶揄する声と共に湧き上る快楽が、幸村の言葉を裏切る。政宗の手の動きに腰が揺れそうになるのを必死で食い止めて、せめて声だけは出さぬようにと唇を噛み締めた。
「声、出せっつってんだろ?」
「っ…」
政宗は何処までも支配者の声で、幸村に命じる。だが、それに従うほど、この身は落ちてはいない。政宗が舌打ちをする。爪で幸村の先端を引っかくようにすると、幸村がビクンと体を震わせた。わずかに緩んだ唇に、自分の帯を引き抜いて銜えさせた。噛み締めることができないように、端を幸村の後頭部で縛る。
「んんっ!」
猿轡をされ、幸村は苦しさにうめく。
「苦しいんだろ? 早く俺を満足させてくれりゃあ開放してやるぜ?」
再び物を握りこまれて、今度は乱暴に追い詰められた。
「んっ、ふっ…!」
鼻から抜ける声が、押さえようもなく幸村の口から漏れる。草の感触を頬に感じながら、飲み下せない唾液が銜えた帯を濡らすのに一瞬、嫌悪を覚えた。
だが、そちらに気を取られている間もなく、政宗の手に翻弄されて意識が混濁していく。
高みに無理やり上り詰めさせられて、幸村は屈辱も恥も全て奪い去られるのを感じた。
「んんっ!」
勝手に腰が政宗の物をくわえ込んだまま、揺れる。体が覚えこんだ快楽を追う術を駆使して、もっと高みに行こうとあがく。
「いーい姿だぜ、幸村。もっと動きな」
後ろから貫かれたままでは、自分で達するまでにはいけない。幸村は動きを止めた政宗を見上げるように首を捻る。
政宗はその様子を見下ろして、笑みを浮かべる。戦場の炎が、今この身の下で屈服している姿はこれ以上ない支配欲を満たす。あられもなく声をあげ、腰を揺らす幸村の目にはなにも映らない。鉢巻に涙が滲んだ。
「ふっ、はっ…っ!」
政宗は満足したように笑って、自分の欲を満たすために幸村の腰を引き寄せる。
「んんっ!」
急に動き出した政宗に翻弄されるように、幸村は声を抑える術もなく、頬を地面にすられながら快楽の波に攫われていった。


時間がないといいつつ、あの男は自分を何度犯しただろうか。
幸村は弛緩しきった体を仰向けに寝かせて、空を仰ぐ。
すでに陽は沈みきっている。証拠隠滅とばかりに幸村の装備を全て整えて、放り出されたのはまだ陽も落ちきっていない時分だったと思う。
面倒なことが嫌いだと言っていた男とも思えないほど、その手際は鮮やかだった。
「伊達、政宗…」
体中の関節が悲鳴を上げる。ぎしぎしと鳴りそうな関節を動かして、幸村は槍を手に取った。槍を杖にして立ち上がると、政宗が消えた方向を見据える。
「この屈辱、戦場で返してくれる」
政宗は去り際、また機会があれば賭けをしようとほざいた。
幸村は、冷えた頭がまた熱くなってくるのを感じる。槍を一振りすると、後ろ手に縛られていたせいか、肩が痛んだ。
「次回はその首、この幸村が貰い受ける!」
肩の痛みを無視して、幸村はそのまま槍を振い続けた。
何も映さない暗闇で見えたもの。
ぼんやりとした光でしかないそれは、蒼かった気が、した。

end



伊達さんSっ子大爆発(笑)この二人、どうなるんだろうねえ(他人事)
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