1とらわれる
一本の矢が飛んできたのかと思った。
気配に、とっさに構えていた槍を一閃して振り返る。

が、矢をはじき返した感触は伝わってこず、それどころか眉間にささった。

――そんな気がした。


ガキィン、と目の前で刃がはじき返される。その音を聞いて、幸村は我に返ったように目を見開いた。はじいたクナイの先を見れば、忍頭の佐助が少しだけ呆れたようにこちらを見返していた。
「なにぼけっとしてんのよ、旦那」
「悪い」
佐助に助けられなければ、確実に命を落としていたかもしれない一撃。槍を繰り出して、はじかれた刃の持ち主の腹に突き刺した。体勢を崩した相手の鎧をも突き通し、肉に刺さる感触が手に伝わる。相手は、声も出せずに体の力を弛緩させた。それを見届けて、槍を引き抜く。返り血が、幸村の体に跳ねた。
「まだ敵さん、戦意喪失してないんだからさ。しっかりしてくれよ」
「わかってる」
幸村は、眉間にささったかのように思えた矢が、今度は後頭部に感じることに少しいらつきながら、槍を構えなおした。
「佐助。某の後ろにだれかいないか探ってはくれまいか」
「ああ、それなら。奥州の竜の旦那だよ」
「竜…。伊達、政宗…」
あっさりとまるで天気の予想でもするかのような佐助の言葉に、幸村の表情が固まる。
「旦那、気付いてないようだったし、竜も動く気なさそうだから黙ってたんだけど。さすが、気付いちゃったんだねえ」
気付いた、のではない。気付かされた。
幸村は、さきほどすっと消えた矢の感触が蘇るような気がして唇を噛み締めた。
今は目の前の敵に集中するしかない。
脳裏に蘇った、以前に対峙したときに見たあの独眼竜の鋭い目を振り払うかのように、幸村は槍を手に、大勢の敵が待ち受ける中に突っ込んでいった。


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