3 逡巡と衝動の交差点
「そっちから会いに来てくれるとはなあ」
「ここで何をしていた」
両者の獲物を挟んで、目と目を合わせる。一歩も引かずに均衡を保つ。
「アンタに会いにきた、と言ったら?」
「望むところ!!」
幸村が気合いとともに刀をはじき返す。一斉に距離を取って、睨みあった。
「俺は別にあんたと闘りに来たわけじゃねえんだけどな」
あんたを見たら、我慢できなかった。と政宗は口の端をあげて刀を収めた。
幸村はにらみつけたまま、槍を下ろす気配はなかった。
「ならば某に会いに来る意味がない」
「そんなことないぜ」
ふと、政宗が力を抜いた。目に宿らせた気合いはそのままに、幸村を見詰める。
「回りくどいのは好きじゃねえ。あんたが欲しい」
「ちょっ、なに言ってんの」
幸村が目を見開くよりも前に、佐助が樹上から降りてきた。幸村の目の前に立って、政宗を睨みつける。
「佐助」
「あんたにゃ言ってねえよ。忍びは隠れて黙ってな」
政宗がいきなり出てきた邪魔者に舌打ちする。
「こっちはそうは行かないんだよ。引き抜きってな話になったら面倒なことになるに決まってるんだから」
「はん。引き抜き? なに言ってんだ」
政宗が不可解な言葉を聞いたというように片眉をあげる。眼帯が少し持ち上がった。
「は?」
不可解なのは、幸村、佐助主従も同じだった。
「だって、あんた旦那が欲しいって…あー。そう、そういうこと。って、えー」
ますます面倒じゃん、と佐助はすべてを察して空を仰ぐ。
「わかったんならどけ」
政宗のドスの効いた声に、佐助は一度幸村を振り返る。それからしょうがないなあ、と呟いて、樹上に消えた。
「じゃ、旦那そういうことで。特に危害は加えなさそうだから俺様先に戻るわ」
「佐助! どういうことだ!」
幸村はすっかり蚊帳の外といった風情でさっぱりわけがわからない。が、もう佐助からの返事は聞こえなかった。
その代わり、前に盾になっていた佐助がいなくなって対峙した政宗から、ため息が漏れた。
「このまま何日かさらって説得でもなんでもしてえ気分だが。明日には甲斐に戻るんだろ?」
「…そうでござるが」
幸村はますます不可解だという顔をする。少々混乱気味なのかもしれない。政宗は未だ槍を構えたままの幸村に近づく。
刀を構えない相手に、幸村は少しだけ動揺したが、槍は下ろせない。
「そういきり立つなよ。俺も明日には奥州に戻る。返事は今度会った時にでも聞かせてくれりゃあいい」
「返事…?」
「おいおい。お前が欲しいっつったろ?」
政宗は額に手を当てて呆れたように上を向いた。いつの間にか政宗は幸村の三歩前まで迫っている。あわてて槍を向けようと後じさりをするが、政宗は両手の槍を捕らえて、槍尻を地面に突き刺した。
「なにをっ」
「どういう意味なのかぜんぜんわかってねえだろ、あんた。だから思い知らせてやろうかと思ってね」
「なにっ…!」
あわてたような幸村はそれでも槍を手放そうとはしない。それに笑って、政宗が混乱している幸村にすばやく接吻けた。掠め取るような触れ合いに、幸村はびっくりしたように目を見開いて政宗を見つめた。
「…今のはなんでござるか」
「さあな。意味は自分で考えな」
政宗はそれだけ言うと、ニヤリと笑って幸村から離れた。そのままきびすを返して元来た道を戻り始める。
幸村は、それを見送ってから、暫くその場に立ち尽くしていた。
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